長野県下各地の森林からA層土壌試料を計20点採取し、実験に供した。土壌中リンの形態は、Hedleyの逐次抽出法を改変した方法により分析した。いずれの土壌型でもNaOH-Pが卓越していた。NaOH-Piは0.5Feo+Alo量と正の相関を示し、NaOHが非晶質AlやFe酸化物に吸着したPiを抽出することを追認した。Pの生物利用性は一般にpH6~7で最大であるが、本研究ではH_2O-PはpHと負の相関を示し、酸性土壌ほどPの生物利用性が高い、という結果となった。これは、本研究で用いた土壌では、酸性のものほど活性Al・Fe量が低いことによると推察される。 土壌型による、微生物特性の差異は認められなかった。ホスホモノエステラーゼ活性とホスホジエステラーゼ活性は共にpHと有意な負の相関を示したが、いずれの画分のP濃度とも相関は見られなかった。しかしながら、両活性とも可給態P/微生物バイオマス炭素の比と有意な負の相関を示した。ホスファターゼ生産は、リン欠乏により誘導されることが知られているため、この結果は、とくに酸性の森林土壌において微生物がリン制限である可能性を示している。このため、これら土壌は窒素流入により微生物のリン制限が顕在化しやすいと予想される。 土壌のNaHCO_3とNaOH抽出液各々について、各種ホスファターゼを添加し、放出されるリン酸を定量することで、リンの形態と生物利用性を評価した。NaHCO_3抽出液では、大部分の有機態リンはホスファターゼで分解可能であった。他方、NaOH抽出液では、有機態リンに占める加水分解性リンは極めて少なかった。NaHCO_3抽出液では易分解性モノエステルリンとフィチン酸様リンが比較的多く含まれていた。このため、NaHCO_3抽出液により、生物利用性の高い有機態リンが森林土壌から抽出されることが示された。
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