研究概要 |
本研究では、今まで困難で試みられていなかった地下水流入量と、それに伴う栄養塩流入量の定量に初めて成功した。先ず、放射性同位体である<222>^Rnに着目し、有明海西岸域の諫早~島原地域の地下水中の<222>^Rn濃度が、同じ淡水の河川に比べて約1~3桁高く、地下水の指標として有効であることを確認した。また、沿岸域の海水中の<222>^Rn濃度にも大きな空間変動が見られ、地域によって地下水の湧出量に差があることが示唆された。5つの定点で算出した地下水フラックス量、沿岸の<222>^Rn濃度、地下水中の栄養塩量から概算した海域への地下水経由の栄養塩フラックスには地域的な違いがあり(溶存無機態窒素(DIN):12~490 kg-N/day,溶存無機態リン(DIP):0.11~3.6 kg-P/day)、地下水中の栄養塩濃度が最も高く、地下水湧出量も多かった島原沿岸域において最大値が観測された。結果として、有明海西岸地域からの地下水由来のDINフラックス総量は、有明海の主要8河川で見積もられている全窒素(TN:DIN+DON+PN)量(33300t-N/y:柳&阿部2005)と比較しても、約0.5~0.86%に相当する。このフラックスは、河川の影響が少ない有明海西岸域では重要な栄養塩源であり、二枚貝などの餌資源として重要な一次生産を高めるだけでなく、大型緑藻類の繁茂を促すなど、様々な生態系への影響が考えられた。 本調査地域は長崎県の水産業を支える地域の一つであるが、近年、諫早潮受堤防建設に伴う環境変化によってダメージを受けており、今後、計画されている長期的な開門調査事業によって受けるであろう影響も計り知れない。大きな河川水流入のない本地域では、地下水流入が陸起源物質を運ぶ主要な媒体であると考えられており、長期開門に伴う潮汐変動が地下水の圧力ポテンシャルを再び変化させ、淡水と陸起源物質の流入にも変化を与えることが想定される。
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