本研究の目的は、陸域から負荷される窒素化合物の河口域生態系内における動態を明らかにし、海域への影響を評価することである。 24年度は陸域からの流入負荷の影響を強く受ける海域側に焦点を絞り、現地調査を実施した。成層期の大阪湾では、湾奥部の浅海域に貧酸素水塊が形成され、高濃度の溶存態無機窒素(DIN)が蓄積している。このDINの主形態はアンモニア態窒素であり,硝酸態窒素が占める割合はわずかであった。形態ごとに安定同位体比を測定した結果、硝酸イオンの酸素同位体比は0‰と小さく、硝化反応によって生成されたものであることが確認された。しかしながら,硝化反応に伴う窒素同位体比の分別係数を見積もったところ、伊勢湾に比べるとその値(15‰程度)は著しく小さかった。また、大阪湾奥部の底層水中では相対照度が1%を頻繁に上回ることも明らかになり、硝化細菌の活性が光などの環境要因によって制限されていたことが示唆される。貧酸素水塊中で生じる硝化反応は、脱窒反応に必要な硝酸イオンを供給する重要なプロセスであるため、大阪湾では硝化・脱窒系の連続的な駆動が生じていない可能性が考えられた。そこで、レッドフィールド比とDOの関係から、貧酸素水塊中で生じている脱窒量を推定し、硝化・脱窒系が連続的に駆動している伊勢湾と比較したところ、アンモニア態窒素が最終形態として貧酸素水塊中に蓄積する大阪湾における脱窒量は、伊勢湾に比べて小さい可能性が示された。
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