西印旛沼(千葉県)にて2008、2009年度に採取した湖水を用い、湖水中に含まれる菌類の18SrRNAをターゲットに、DGGE法(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法)により菌類群集の種組成を調べた。DGGE法により多くのバンドが確認され、多様な真菌類が存在する事が示唆された。出現したバンドの中から24本のバンドを切り取り、シークエンスした結果、16本のバンドにツボカビ様の配列が認められた。植物プランクトンに寄生する種類だけでなく、有機物を分解する種類も認められ、印旛沼においてツボカビが主要な菌類である事が明らかとなった。また、子嚢菌や担子菌の出現も確認されたが、その出現頻度は低かった。 植物プランクトンに寄生するツボカビの出現パタンを明らかにするため、2009年度、2週間に1回採取した西印旛沼と北印旛沼の湖水を染色液(Calcofluor white)にて染色し、蛍光顕微鏡下にてツボカビの種組成と密度(胞子体数)を調べた。両沼において、春と秋に優占している珪藻Aulacoseira granulataとA.amnigua上にそれぞれ2種類のツボカビが寄生していることが確認された。しかし、その出現パタンは北と西では異なり、栄養塩濃度の高い西印旛沼のほうが、珪藻およびツボカビの密度は高い傾向にあった。ツボカビ数の変動パタンは珪藻の増減と同調する傾向を示し、重回帰分析の結果、ツボカビ密度は栄養塩のリンとの間に強い相関が見られた。水中のリン濃度の変化に伴う珪藻の種組成や密度の変化が、ツボカビの種組成及び密度を決定する要因である可能性が推察された。冬に優占する珪藻Synedra sp.にもツボカビが高頻度で寄生していることが確認された。このツボカビ密度は水温との間に相関関係がみられ、リンではなく水温によって密度が決定していると考えられた。印旛沼は富栄養湖で、珪藻は盛んに成長する。そのような環境下では、珪藻はツボカビの影響により成長が抑えられる事はあまりなく、むしろツボカビは珪藻の成長とともに増加すると推察された。
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