研究概要 |
本年度は,昨年度中に構築したガスクロシステムを利用した洋上観測を実施した。当初予定していた貧窒素栄養海域における航海は震災の影響などもあり実施できなかったが,比較的窒素栄養の枯渇している海域での別航海(西部北太平洋)に乗船し,洋上観測を実施できた。窒素栄養が豊富な中緯度域では表層水のH2濃度は一日を通じて大気平衡濃度以下であったが,亜熱帯定期観測点(Sl)においては,日中に過飽和となっていることが判明した。これらの成果はサンプル瓶に採取して実施する従来の分析法でのものである。同航海の船舶は「みらい」であったが,「みらい」の連続採水システムからの採水では,バイアル瓶試料に比べて圧倒的に高いH2濃度が観測された。これは採水システムにおけるH2生成を示唆しており,当初計画していた航走しながらの連続観測が,少なくとも「みらい」では,難しいことを示している。同航海では,震源域周辺の海底直上水の採取を行い,H2濃度の観測を実施した。この結果,深層水では本来ありえないH2濃度の過飽和が検出された。H2以外の,たとえばメタンやマンガンについても同様に濃度の高まりが検出され,また微生物菌数の増加や微生物群集構造の変化も認められた。これらの原因として,地震による海底堆積物の舞い上がりと海底下深部からの流体放出を想定し,成果をまとめ論文を投稿し,ネイチャー出版会のオンラインジャーナルであるサイエンティフィックリポーツ誌に掲載された。
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