亜熱帯外洋域では,表面混合層とクロロフィル極大層で基礎生産力(表層で高,極大層で低)と植物プランクトン炭素現存量(表層で低,極大層で高)にミスマッチがある。本研究は「仮説;このミスマッチには表層での微小動物プランクトンの摂餌によるトップダウン効果が働いている」を提唱し,両深度層での群集構造と摂餌圧を比較してこれを証明する。 北緯30度,東経145度に観測点を設定し季節別観測を行った。水柱積算基礎生産量は冬期から秋期にかけて減少し,亜表層クロロフィル極大は春季に50m,夏・秋期には90m付近に認められた。一方,微小動物プランクトンバイオマスは,基礎生産の変動とは逆に冬期(950 mgC m-2)から秋期(1600 mgC m-2)にかけて増大し,鉛直分布は春期には0m,夏・秋期には亜表層で高くなるがクロロフィル極大層とは一致せず50~60mに極大を有していた。微小動物プランクトン群集は,全季節を通して従属栄養性ナノ鞭毛虫が優占し(総炭素現存量の62~89%),従属栄養性渦鞭毛虫(5.9~23%)と無殻繊毛虫(5~22%)が続くが,表層と亜表層クロロフィル極大層における組成に明瞭な違いは見いだせない。微小動物プランクトンの摂餌速度は希釈培養実験によって測定された。クロロフィル極大層形成期の摂餌速度は,表層で0.08~1.05 d-1 (n = 6) およびクロロフィル極大層で0.01~0.24 d-1 (n = 6) だった。平均摂餌速度は亜表層より表層で高いが,両深度ともに実験間の変動幅も大きい。この結果は,本研究を開始するにあたってたてられた仮説を支持するが,トップダウン効果は恒常的には働いていないと考えられた。
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