複数のダムの相互作用に着目し、河川下流域や汽水域の生態系に与えるダムの影響を流況と物質輸送に着目して解明することを目的としている。そのために、相模川水系(山梨県、神奈川県)を対象とし、1)複数のダム湖による河川水質への影響の解明、2)流況に着目した流域スケールでの魚類分布モデルの開発を実施した。 ダム群と河川水質の関係については、流域の水利用や貯水池の影響を受けやすい溶存有機炭素(DOM)に着目して進めた。まず、多様な起源をもつ国際標準腐植物質を対象とした化学構造データベースを整備し、その上で、蛍光分光光度計を用いた3次元蛍光スペクトル(EEM)のPARAFAC分析も取り入れて、相模川流域のダム湖水も含めた水質評価を進めた。その結果、DOC濃度は0.29~1.0 mg/Lの範囲で安定していたが、PARAFAC分析の結果として得られた腐植物質に類似した各第1~3成分の寄与は調査地点ごとに異なっていた。そして、貯水池前後での第1~3成分の変化は貯水池の栄養塩レベルで異なることも明らかとなった。 次に昨年度までに適用した分布型流出モデルを活用して、相模川流域の物理、水質、水文条件等の環境条件に基づき、淡水魚の出現確率と個体密度をセクションごとに推定するモデルの構築を進めた。その結果、出現確率では18種、また個体密度では10種の流域内分布を精度よく記述することが可能となった。そして、流域内でのダムや堰の配置を変えた状況やダムの放流操作を変化させた状況をモデル上で再現し、流域スケールでの横断構造物の影響を流況および魚類分布の視点から評価した。このような魚類分布モデルにより、ダムによる河川の分断化なども考慮して水資源利用の影響を多面的に評価でき、最適な水資源配分やダム運用方法を検討する知見を提供することが可能となった。
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