研究概要 |
近年、外来種の侵入予測や在来種への影響範囲についての研究事例は増えているものの、生物多様性保全にとって緊急を要する現時点においては、むしろ優先的に守るべき対象生物側の視点に立った「重要保全地域」を明らかにすることが最も注目すべき課題である。より効率的に、集中的に希少種保全や外来種駆除対策を計画するためにも、このような絶滅危惧種や固有種の多く分布する「重要地域」の新たな選定手法が望まれる。そこで平成22年度は、絶滅危惧種の生育・生息可能な適地を明らかにするために、東京島嶼を例に高解像度衛星画像SPOT-5や空中写真、また地上からの現地踏査を組み合わせ、在来種の多い植生や土地利用の判読を行い、その中でも特に近年改変が激しく、保全対策の必要な重点対策エリアを地理情報システム(ArcGIS, ERDAS IMAGINE等)を用いて抽出した。土地被覆特性は、草地型、二次林型、原生林型に大きく類型化し、土地利用履歴・地形等の基礎的な環境情報を保全対象種別に類型化し、ハビタット(生育適地)の特性が同等な地域がほかにどこに存在するかを示す「環境ベースマップ」を作成した。重要な種の潜在的分布範囲と環境省の自然環境保全基礎調査・植生調査・植生図の「植生自然度」と照合させた結果、植生自然度が9もしくは10に該当する原生林や自然林、特殊植生などについての大部分は既存の国立公園の第一種特別地域および特別保護地区とよく一致していた。しかし、こういった法的規制区域から外れた地域におけるスダジイなどからなる照葉樹林の二次林など植生自然度が7から8のエリアにおいても絶滅危惧種や固有種の分布が多数確認された。これらの新たな区域も潜在的な「重要地域」であることがわかった。本年度の研究成果は、日本生態学会第58回大会において公表し、一般に向けて重要保全地域の選定に関する手法提案に貢献した。
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