メタンは主要な地球温暖化ガスであり,二酸化炭素と同様に近年大気中濃度が増加しつつある。そのため,地球規模でのメタンの循環プロセスの解明は重要な研究課題である。従来微生物による嫌気的メタン酸化プロセスが主に海底堆積物中で生じていることが知られていた。それを担う嫌気的メタン酸化古細菌の報告はこれまでほぼ海底堆積物に限られており,陸域環境での実態は明らかになっていなかった。平成23年度までの研究により,関東平野の地下圏内において,微生物による嫌気的メタン酸化ポテンシャルが存在すること,またそれを担う微生物が,海底に存在する嫌気的メタン酸化古細菌群と系統的に異なることを分子生物学的手法により明らかにし,ANME-1a-FWサブグループとして国際誌 (Environmental Microbiology)に発表した。 平成24年度は,陸域地下圏内において実際にどの程度の嫌気的メタン酸化反応が生じているのかを定量的に評価するため,新たに関東平野の沖積層試料を掘削により採取した。その結果,3-19mの間において,いずれの深度でも嫌気的メタン酸化活性が検出され,特に16-19mで高いことが明らかになった。また,ANME-1a-FWサブグループの生理学的特性を解明するため,様々な条件を設定した培養試験を実施した。その結果,塩濃度はNaCl未添加の場合に最も活性が高く,ANME-1a-FWが淡水環境に適応していることが確認された。また,15-40℃の範囲で嫌気的メタン酸化活性が検出された。嫌気的メタン酸化古細菌は一般的に硫酸還元菌と共生していると考えられているが,バクテリアの阻害剤である抗生物質を定期的に添加しても嫌気的メタン酸化活性の阻害はみられなかった。
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