研究概要 |
気候変動下における緩和策と適応策は、持続可能な発展を実現するための主要な方策である。本研究は、東アジアにおける緩和策・適応策の統合評価モデルを構築し、持続可能な気候変動対策の策定に向けた指針づくりを目指す。 平成23年度は、昨年度実施した先行研究の整理に基づき、アジア太平洋地域での脆弱性評価の基本設計を行った(田村,2012)。気候変動に対する脆弱性の要素は、第一に気温上昇、海面上昇、降雨変化などの気候変動に伴う外力の大きさ、第二に影響を受ける自然や社会の感受性、第三にそれらに対する社会の適応能力である。 適応能力評価に関しては、ベトナムにおける省別の人間開発指数の推計(Human Development Index : HDI)を行った。HDIは、ゴールポストとよばれる先験的に設定された(社会基盤整備を含む広義の)開発目標とその達成度を数値化した指標である。適応能力は社会によって異なり、その配分には社会・経済プロセスが決定要因となる。その結果、ホーチミン市の適応能力はベトナムの平均よりも高い一方、メコンデルタ周辺の省(TraVinh、SocTrang等)ではやや低いことが定量的に明らかとなった。また、適応策の実施に向けて、アジア太平洋地域における既存の国際的な適応ネットワークを研究指向型、政策指向型、コミュニティ指向型の3つに整理し、これらが相乗効果を生むための役割分担や適応ネットワークのあり方を論じた(Yasuhara et al,2011)。 一方、緩和策についてはマルチ・カリブレーション法(MCDA)と既存の構造分解分析(SDA)との比較を行い、当手法の理論的な頑健性を検証した(Okushima and Tamura,2011等)。 以上のとおり、平成23年度は適応能力を中心とした脆弱性評価のプロトタイプ構築とMCDAの検証ができた。今後は、各項目の精緻化とともに気候外力を考慮した総合的な脆弱性評価の実施を目指す。
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