H.22年度は、主に地表水と地下水の統合管理論のサーベイを行い、統合管理論の正当化論拠の整理を行った。統合管理が望ましいとの主張する研究は過去にもあった。例えば米国の著名な水法研究者であるS.ウィールは、地表水と地下水が物理的に一体であることを論拠に、古くから両者の統合管理の必要性を指摘している。これはA.パイパーら水文学者の意見にも共通するところがある。彼らは水循環の視点に立てば水資源は地表水も地下水も一体のものであり、自然に存在しない区別を基礎に立法や裁判を行うことは混乱を招くと指摘した。日本でも地盤沈下の深刻化を受けて地下水の取り扱いをめぐる議論が活発化し、金沢、三本木などが、やはり水循環を根拠に地表水のみならず地下水にも公的規制をかける必要性を唱えた。初年度はこうした既存論文の分析を通じて、様々な正当化論理を整理し、資源配分の効率性という視点から統合管理の必要性を整理した。 こうした整理に基づき、本年度は愛媛県西条市の地下水問題をモデルに、地表水と地下水を分断管理することの具体的弊害について考察を進め、その論文執筆を行った(同論文が所収される書籍は現在編集作業段階で印刷が開始されていないため、下記の研究成果には敢えて含めなかった)。同論文では地表水と地下水が法的に分断しているところでは、地表水分水に伴う外部不経済が十分に内部化されず、結果として水資源の浪費が起こり得ること、さらにその分断は同時に利害関係者の分断をも引き起こし、利水者の意見表明プロセスに齟齬を生じさせる恐れがあることを明らかにし、統合管理の必要性を論じた。
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