現在、日本を含む多くの国にとって気候変動への対応策作りは危急の課題である。特に日本では気候変動により渇水リスクの増大が懸念されており、社会生活の基盤である水の有効利用は重要性の高い政策課題となっている。我が国はこれまで水不足に対して、ダム建設を通じた水資源開発という対策を取ってきたが、ダムサイトの減少、環境意識の高まりなどにより、この方策を従来通り推進することは困難になってきている。そのため政府は量的な拡充に重きを置く方針から、水資源の有効利用といった需要管理をも加味した方針、いわゆる「総合的水資源マネジメント」への移行を模索しており、我が国の水資源管理政策はまさに大きな転換点を迎えようとしている。 本研究では総合的水資源マネジメントのなかでも特に基本的項目とされる「地表水と地下水の統合管理」に焦点を合わせつつ、それが必要な論拠-言い換えれば、地表水と地下水を分割管理することのデメリット-を明らかにすることを目的とする。具体的には、地表水と地下水の間に法的な分断がある水資源管理制度では、水をめぐる外部性の是正が十分になされない恐れがあるという仮説を掲げ、これを日本の地方公共団体の地下水管理の事例研究を通じて論証しようとするものである。 これまで熊本県熊本市、愛媛県西条市を事例に研究を進めてきたが、平成24年度は長野県安曇野市を中心に研究を進めた。長野県安曇野市は地下水依存度がきわめて高く、飲料水、特産品であるわさび田、観光業など多方面で地下水が用いられている。ところが地下水位の低下が懸念されたことから、地下水資源の強化を目的とした地下水の人工涵養を視野に入れた地下水管理計画を策定した。この研究では、この地下水管理計画の策定プロセスに注目しつつ、地表水と地下水の間に見られる法的な分断が、人工涵養を通じた外部経済の増強に障害をもたらしていることを明らかにした。
|