研究概要 |
本年度は,DNA損傷チェックポイント因子ATMの酸化ストレスセンサー機能に関与するアミノ酸残基の同定,ATMのDNA損傷チェックポイント機能の必須上流因子NBS1の解析,SH基反応性代謝産物15d-PGJ2が細胞に及ぼす影響の解析,15d-PGJ2と他のSH基反応性代謝産物に対する細胞応答の比較による,ATMが対処する酸化ストレスの傾向の解析に取り組んだ. 特定のタンパク質のSH基に共有結合する15d-PGJ2がATMにも結合することを見出した.この結合部位はATMの酸化ストレスセンサー機能に重要であると考えられ,350kDaの巨大タンパク質ATMを8断片化し結合部位の絞り込みを行った.その結果,全ての断片において15d-PGJ2との結合が見られ,この方法では結合部位の同定が困難であることがわかった.ATMのDNA損傷チェックポイント機能の必須因子NBS1は,15d-PGJ2によるATMの活性化には必要なく,ATMのDNA損傷チェックポイント機構と酸化ストレスセンサー機構は別経路であり,NBS1はDNA複製障害チェックポイント因子ATRの活性化にも必要であることを明らかにした.15d-PGJ2はDNA損傷応答を引き起こさず,アポトーシスや細胞老化を誘導することを明らかにした.他のSH基反応性代謝産物であるONEや8-nitro-cGMPも15d-PGJ2と同様にDNA損傷応答を引き起こさずに,p53のリン酸化と蓄積,アポトーシスを誘導することを明らかにした. ATMの上流因子NBS1が,ATR経路にも関与することを明らかにしたことは,ナイミーヘン症候群とATRセッケル症候群の関連性の解明に役立つものである.ATMの酸化ストレスセンサーの機能にはSH基が重要で,さらに,細胞老化を誘導することを明らかにしたことは,酸化ストレスと細胞老化をより直接的に結びつけるものであり,その機構を明らかにする上で意義あるものである. 来年度は,引き続き結合部位の同定に取り組む.また,過酸化水素によるATMの活性化に2991番目のシステインが必要であるという新たな報告を基に,そのシステインを変具させた変具型ATMを作製し,15d-PGJ2刺激に対する影響を解析する.
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