DNA二重鎖切断(DSB)の相同組換え修復経路で中心的な役割を果たすRAD51蛋白質が、DSBの初期応答因子NBS1と結合することの生物学的意義を明らかにするという本研究の目的のため、昨年度の実験から得られた結合領域に関するデータをもとに、本年度はRAD51と結合できないMRE11変異体の作製を行った。RAD51結合領域を欠失させたMRE11を作製し、免疫沈降による結合分析を行った結果、この変異型MRE11はNBS1とRAD50との結合は正常であり、RAD51との結合量が低下していることが明らかとなった。従って、このMRE11変異体はMRN複合体の形成には異常がなく、RAD51との結合に異常があると考えられた。MRE11欠損細胞であるATLD患者細胞にこの変異型MRE11を導入して放射線感受性を調べたが、放射線感受性は野生型MRE11を導入した時と同程度まで回復した。また、相同組換え修復能を調べるため、ATLD細胞を用いてDR-GFPアッセイを行ったが、野生型MRE11と変異型MRE11を発現させた場合で相同組換え修復能に差はなかった。したがって、今回作製した変異型MRE11は放射線によるDSBを修復する能力を十分に有していると考えられる。DSBの修復では、末端を再結合する際に塩基の挿入や欠失、違う末端同士の結合を起こす危険性をはらんでおり、それらは発がんの原因となる。本研究で作製した変異型MRE11はDSBを再結合する能力を持っている分、これらの毒性が高い。RAD51とMRE11の相互作用が染色体異常や突然変異の生成にどう関わっているのかということが、今後の重要な課題である。
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