本年度は2006-2009年に日本各地で採取した陸棲哺乳類7種(ネコ、イヌ、アライグマ、キツネ、タヌキ、ハクビシン、アナグマ)の血中OH・PCBsを分析した。全ての陸棲哺乳類からOH・PCBsが検出され、アライグマとネコは相対的に3、4塩素化OH-PCBsの濃度が高く、その他の種では7、8塩素化体が高濃度を示した。本研究結果よりイヌ、キツネ、タヌキ、ハクビシン、アナグマは、5塩素化OH・PCBs以下の低塩素化体と血中の甲状腺ホルモン輸送タンパクであるTTRとの結合能は低く、第II相反応へ早く移行し、体外へ排出されやすいと推察された。しかしながら、アライグマとネコは他の陸棲哺乳類と異なるOH-PCBsの同族体組成を示したことから、OH-PCBsの蓄積性には食肉目の中で種差があると推察される。とくに、ネコは親PCBsの同属体組成がイヌ、タヌキ、ハクビシンなどと同様の傾向を示したが、OH-PCBsの同属体組成は他種と大きく異なる結果を示した。これらの結果はネコが特異的な代謝機能を持つことを示唆している。ネコはフェノール化合物などの代謝を担うグルクロン酸抱合能が欠損しているため、他種とは異なる代謝パターンを示したものと推察される。そのため、グルクロン酸抱合で代謝される化学物質の毒性に対する感受性は高いことが予想され、水酸化代謝物のハイリスクアニマルであることが推察された。本研究より、陸棲哺乳類のPCBs代謝機能は生物種によって大きく異なることが示唆された。とくに、水酸化PCBs代謝物に対するネコの感受性は高いことが予想され、蓄積特性の解明やリスク評価が今後の重要課題と考えられた。 さらに、本年度は夾雑物の多い脳、肝臓中のOH。PCBs分析法を開発した。数種のゲル吸着クロマトグラフィーや不活性吸着剤を組み合わせることにより、生体組織試料でも高いクリーンアップ効果と誘導体化効率を達成した。その結果、肝臓や脳中においても低塩素化体から高塩素化体まで幅広い異性体の分析を可能にした。
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