研究課題
日本各地で採取した陸棲哺乳類7種の血中OH-PBDEsを分析した。全ての陸棲哺乳類からOH-PBDEsが検出され、とくにネコのOH-PBDEs濃度は他種に比べ高値を示した。異性体組成のパターンから、餌より天然起源のOH-PBDEsを取り込んでいることが推察された。ネコはフェノール化合物の代謝を担うグルクロン酸抱合能が欠損しているため、他種と異なる残留代謝物のパターンを示したと考察される。そのため、グルクロン酸抱合で代謝・排泄されるフェノール類に属する化学物質の毒性に対して、ネコの感受性は高いことが予想され、本種は水酸化代謝物のハイリスクアニマルであることが示唆された。動物病院の協力を得て採取したペットのイヌ・ネコの血液を用いて、PCBsとPBDEsおよびその水酸化代謝物、天然起源のMeO-PBDEsを分析した結果、ネコの血中OH-PBDEs、MeO-PBDEs濃度はイヌに比べ2~3桁高値であることを明らかにした。さらに、OH-PBDEs、MeO-PBDEsの曝露経路を明らかにするため、様々な種類のペットフード(缶詰、固形乾燥フード、パック詰めなど)を分析したところ、海産物を原材料とするキャットフード中には、天然起源のMeO-PBDEsが高濃度で残留していた。MeO.PBDEsは生体内で脱メチル化されOH-PBDEsへ変化することが報告されており、ネコの血中OH-PBDEsの起源は、その大部分が餌から摂取したMeO.PBDEsの代謝によってOH-PBDEsへと脱メチル化され、血中に残留したものと推察された。近年、OH-PBDEsは脳へと移行して神経伝達物質や甲状腺ホルモンに影響を及ぼすことが指摘されており、ネコは水酸化代謝物によるこの種の毒性がとりわけ危惧された。以上の結果から、陸棲哺乳類におけるPCBs、PBDEs水酸化代謝物の残留パターンと代謝能は、生物種によって大きく異なることが判明した。とくに、ペットフードを介した有機ハロゲン化合物とその水酸化代謝物に対するネコの感受性は高いことが予想され、海産物を主原料としたキャットフードをネコに与え続けることによる、ハロゲン化フェノール類がもたらす甲状腺機能への影響が懸念された。
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