研究課題
前年度に確立したDNAメチル化状態の網羅的解析手法を用い、ディーゼル排ガス胎仔期曝露により、仔の脳に生じるDNAメチル化異常を解析した。前年度の研究において、1日齢の雄性産仔でメチル化頻度が低下するDNA領域が多く認められたことから、1日齢の雌性産仔についてDNAメチル化状態を解析した。その結果、雌性産仔においても、胎仔期のディーゼル排ガス曝露によりDNAメチル化状態が大きく変化し、特にメチル化頻度が低下するDNA領域が多く認められた。1日齢で認められたDNAメチル化状態の変化が、成長に伴ってどのように推移するのかを調べるため、産仔が3週齢になった時点でサンプルの採取を行い、DNAメチル化状態を網羅的に解析した。その結果、雄性産仔、雌性産仔ともに3週齢の時点でもDNAメチル化状態に変化が生じていることが明らかになった。このことは、胎仔期のディーゼル排ガス曝露によって仔に生じるDNAメチル化異常が、出生後少なくともある程度の期間にわたって持続し、生体影響に関与することを示唆している。また、1日齢の雄性産仔、雌性産仔に共通してメチル化状態に変化が認められた遺伝子に着目し、各々の遺伝子に付与されたGene Ontologyをデータベースから抽出することで、どのような遺伝子機能に変化が生じるか検討を行った。その結果、receptor activityやDNA bindingといった機能が抽出され、各種の受容体の活性や遺伝子の転写制御に異常が生じやすい可能性が示唆された。本研究の結果は、ディーゼル排ガス胎仔期曝露によって仔の脳に生じる生体影響の背景にDNAメチル化異常を介した遺伝子発現の変化が存在することを示唆するものであり、生体影響のメカニズムを解明する上で極めて重要な知見である。
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Stem Cells
巻: 29 ページ: 1942-1951
10.1002/stem.753
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