代表的な光触媒は酸化チタンがよく知られているが、最大の欠点の一つは紫外線しか吸収・利用できないことである。したがって、室内のように紫外線強度の低い環境では、十分にその能力を発揮することはできない。一方、酸化タングステンは可視光を吸収できるなどの多くの利点を有し、その表面に白金やパラジウム等の助触媒を担持することで、高活性となることが明らかとなっている。本研究は、可視光領域を吸収・利用できる酸化タングステン粒子自体に着目し、ナノ構造を制御することによる高活性光触媒の合成法の確立を目的とする。今年度は、サルボサーマル法による酸化タングステンナノ粒子の合成法を検討した。各種試薬の添加量・反応温度・反応時間・反応pH、及び得られた粉末に対する焼成温度・焼成時間を詳細に検討し、走査型電子顕微鏡にてその構造を観察した。その結果、球状やチューブ状の形態をしているものが得られた。しかし、その収率は極めて低く、ほとんどがナノサイズの粒子が凝集しているものであった。そこで、添加剤を尿素からチオ尿素へ変更したところ、針ネズミ状の形態をしたものが高収率で得られることを見出した。得られた粉末に対してX線回折により結晶構造を測定したところ、WO_3であること確認した。また拡散反射スペクトルを測定し、バンドギャップを求めたところ、市販の酸化タングステンと同様であった。可視光照射下における光触媒活性を染料の脱色速度により評価した結果、その光触媒効果は認められた。しかし、その活性は十分なものではなかった。次年度、適切な助触媒を探索し、高活性な光触媒の開発を行っていく予定である。
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