ゴカイ類を用いた海洋底質環境浄化(バイオレメディエーション)技術の確立を目的とし、生息域の異なるゴカイ類の有機物代謝系及び異物代謝系の種間における代謝能力を比較検討した。 有機物質代謝酵素活性測定の結果、タンパク質が多く蓄積する養殖場下に生息するイトゴカイはタンパク質を分解するプロテアーゼ活性が高く、また陸上起源の植物系有機物が蓄積する河口域に生息するスナイソゴカイは、セルロースを分解するセルラーゼ活性が高値を示した。また、化学物質の代謝に寄与する異物代謝酵素であるチトクロムP450(CYP)活性を測定した結果、ゴカイ種間において活性に差が認められた。 各酵素遺伝子のクローニングの結果、イトゴカイからプロテアーゼ、スナイソゴカイからはセルラーゼと高い相同性を持つ遺伝子を得た。イトゴカイのプロテアーゼ遺伝子は腸管及び体表で、スナイソゴカイのセルラーゼ遺伝子は腸管で強い発現が観察された。さらに、無細胞タンパク質合成系を用い合成したスナイソゴカイのセルラーゼは酵素活性を保持した。CYP遺伝子については、イトゴカイおよびイソゴカイからCYP4ファミリーと相同性の高い遺伝子の部分配列を得た。 環境調査の結果、汚染の進行した底質において、ゴカイ類が底生生物のなかで最も高いバイオマスを占め、多数の種類が確認された。 当該年度の研究結果から、遺伝子・タンパクレベルでゴカイ類が各種汚染底質に適応した底質浄化能を保持していることが示唆された。各種汚染地域の底質に適したゴカイ種を選定・利用する効率の良いバイオレメディエーション技術を開発することは、漁場環境の保全の達成と安心・安全な水産物の生産に向けた大きな一歩となります。
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