研究概要 |
本年度の研究では、カーボンナノチューブの表面に銅原子を担持させ, その後そのサイトが酸素分子を活性化できるかを密度汎関数法計算で探った. チューブ表面としては, 昨年度見出した空孔欠陥を基に, 欠陥部位の四つの炭素原子を窒素原子に置換したものを用いた. この欠陥部位近傍の構造は, ポルフィリン環に類似したものである. この構造類似性のため, 銅原子を容易に表面に取り込むことが可能であった. この銅担持ナノチューブを用いて酸素分子との結合生成, および活性化についてのエネルギー論を調べた. この時, チューブの内部表面および外部表面での化学現象の比較を行った. まず, 銅担持チューブと酸素分子が相互作用できるかを調べた. その結果, 酸素分子は銅原子近傍に緩やかに捕捉されることが分かった. この捕捉現象において, ナノチューブ内部と外部の違いは見られなかった. この構造を基に, 銅担持チューブによる酸素分子の活性化についての知見を得た. 外部表面で酸素分子が活性化した構造を最適化したところ, 銅オキソ種が得られた. しかし, この銅オキソ種は, 酸素捕捉状態より 66 kcal/mol 不安定であることが分かった. この結果は, 銅担持ナノチューブによる外部酸素分子の活性化には熱エネルギーが必要なことを示唆している. 一方, 内部空間での酸素分子活性化については最適化構造すら得られなかった. この外部および内部表面の化学現象の違いは, オキソ種生成において銅原子の移動のしやすさに起因する. 銅オキソ種はオキソ部分にスピン密度を持つため, メタンの C-H 結合活性化に用いられる. この種は, 生体内酵素でのメタン酸化反応の活性種である. 今回, この銅オキソ種がナノチューブ表面に生成されるには熱エネルギーが必要であることが分かった. これはチューブ表面の硬さが原因である.
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