研究概要 |
本研究では、高強度炭素繊維の引張強度を向上するポリマーコーティングのナノヒーリング機構について検討し、繊維の最大強度を引き出すための指針を提案することを目指している。本年度は(1)気相/液相プロセスによるヒーリング効果の相違と、任意寸法の人工欠陥を導入した炭素繊維において(2)欠陥寸法に応じたコーティングの物理的含浸性について検討した。まず、高温蒸着重合法にて、高強度PAN系炭素繊維(T1000GB)に、気相モノマ分子を吸脱着させ、直接、厚さ100nm程度のポリイミドコーティング(PMDA/ODA)を形成した。一方、液相法では、NMP溶液中にてポリイミド前駆体(ポリアミック酸:PMDA/ODA,BTDA/ODA)を合成し、単繊維にディップコートした。ポリイミドは炭素繊維に比べて極めて小さな弾性率を有するポリマであるが、厚さ100nm程度のコーティングを施すことにより、単繊維引張強度を向上できた。特に、高温蒸着重合法によるコーティングでは、平均引張強度を約25%向上できることが明らかになった。そこで、コーティングが物理的に含浸できる欠陥寸法と分子サイズとの関係について検討した。深さ100nm以下の人工欠陥(ノッチ)を導入した炭素繊維の表面に気相/液相コーティングを施し、ノッチへの含浸状態をSEM観察した。液相法ではノッチの一部にのみコーティングが侵入したが十分な含侵性は得られなかった。ポリアミック酸の分子サイズ(約80nm)がノッチ開口幅(30nm)より大きいことが要因の一つと考えられる。一方、気相法ではノッチ内を完全に含侵できた。気相モノマ分子(約1nm)は、直接ノッチ内に侵入できるため含侵性が高まったと考えられる。さらに、異なる深さのノッチを導入した炭素繊維を用い、高温蒸着重合ポリイミドコーティングが及ぼす繊維引張強度への影響を調べた。コーティングによる引張強度の向上と欠陥寸法の関係から、本コーティングでは深さ30nm以下の表面欠陥に対してヒーリング効果を発現できることが明らかになった。
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