本研究では、高強度炭素繊維の引張強度を向上させる高温蒸着重合ポリイミドコーティングのナノヒーリング機構について検討し、繊維の最大強度を引き出すための指針を提案することを目指している。本年度は、(1)化学的結合性の観点から繊維/コーティングの中間反応層の成分分析と、繊維近傍での界面せん断強度評価を行い、(2)繊維引張強度に及ぼす本コーティングのヒーリング機構について検討した。 まず、Si基板上に炭素繊維表面から抽出したサイジング剤と高温蒸着重合ポリイミドコートの積層モデル材料を作製した。飛行時間型2次イオン質量分析により、熱イミド化後の繊維/コーティング界面近傍の各成分の濃度分布を分析した。その結果、コーティング相の主成分がサイジング相に拡散され比較的高密度の中間層が形成されていることが明らかになった。透過型電子顕微鏡による断面観察からも、同様の高密度中間層の形成が確認されている。高温蒸着重合法では、比較的高密度の相を炭素繊維表面のナノ欠陥内に含侵させることができることから、本コーティングにより見掛け上、ナノ欠陥の深さを小さくし、欠陥先端の曲率半径を増加させることが本ヒーリング機構の要因と考えられる。 さらに、本コーティングの有無により、炭素繊維近傍の界面せん断強度の違いが与える繊維引張強度への影響について検討した。マイクロドロップレット法により、繊維/母材とコーティング/母材の各界面でのせん断強度を測定した結果、無コーティングに比べて、コーティング/母材の界面でのせん断強度は小さくなった。したがって、本コーティングを施した繊維強化複合材料において、繊維軸方向に引張応力が発生した場合、応力方向と垂直に進展するクラックは、比較的せん断強度の小さい"弱い界面(コーティング/母材の界面近傍)"へと亀裂進展方向を変えることにより繊維の切断を抑え、繊維引張強度の低下を抑制できたと考えられる。
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