本提案においては、強磁性絶縁体を介したジョセフソン接合の量子輸送理論の構築及び量子コンピュータへの応用に関して研究を行うことを目的とする。本年度は昨年度開発した高温超伝導体/強磁性絶縁体/高温超伝導体接合におけるジョセフソン電流計算プログラムを利用して現実的構造(エネルギーバンド、素子構造)や有限温度効果を考慮した大規模数値シミュレーションを行った。その結果、BCS超伝導体接合だけでなく異方的オーダーパラメーターを有する高温超伝導体接合であっても、原子スケールで0π転移が発現することが明らかとなった。さらに転送行列法及びトンネルハミルトニアンの手法を用いて転移の起源を解明した。またこの結果に基づいて人工酸化物超格子を用いて0π転移を観測する方法及びそれを利用したコヒーレント量子ビットの提唱を行った。これらのアイデアに関してオランダ及びイギリスの実験グループと協同研究を開始した。さらに、Beenakker公式を用いることにより有限温度領域におけるジョセフソン電流の計算を行い、温度変化によってπ接合から0接合へ転移が生じルことを示した。またさらに、ジョセフソン臨界電流が極めて異常な温度依存性を示すことが明らかとなった。このことは実験的に接合の温度依存性を測定するだけでπ接合の検証が可能になることを意味する。そして、Bogoliubov-de Gennes方程式を対角化することによりアンドレーフ束縛状態の観点から、温度誘起0π転移の起源を明らかにした。これらの重要な成果に関して国際会議(ロシア)において2件の招待講演を行った。以上の成果により、強磁性絶縁体/超伝導体接合の量子情報デバイスとしての高いコヒーレンス性能が明らかとなった。さらに今後は電子冷却デバイスや量子標準、高感度磁気センサーへの応用について検討を行っていく。
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