低次元ナノ構造では、欠陥やステップなどの局所構造が作り出す電子状態が、時にナノ構造全体の特性を大きく左右する。例えばグラフェンではナノサイズ幅の短冊状に切り出されたナノリボン構造を形成することが知られており、理論研究によってリボンの長辺(エッジ)に起因した特異な電子状態を発現することが予測されている。特にアームチェア型エッジを持つナノリボンでは元来バンドギャップを持たないグラフェンに半導体的な電子状態が予測されたことで、高移動度の電界効果トランジスタのチャネルへの応用が期待されている。一方で、ナノリボンは配線材料としても注目されている。申請者はグラフェンデバイス開発を促進することを目指し、エッジなどの局所構造に起因した電気伝導特性を、多探針原子間力顕微鏡(MP-AFM)を用いて実験的に解明することを目的とした。剥離法を用いてシリコン酸化膜上に作成した単層グラフェンのリボン(幅290nm)を2探針AFMによってシート抵抗計測を行ったところ、従来報告されている値に比べ1.3~1.5倍程度大きい値が測定された。バンドギャップの発現が電気特性に顕著に表れると理論予測される幅(20-30nm)に比べて10倍の幅を持つリボンにおいてもシート抵抗の増大が現れたことは、電子状態変化だけでなくエッジ散乱による抵抗増大がデバイスや配線利用に大きな問題となることを示唆している。また、微傾斜シリコンカーバイド表面上に昇華法によって形成したグラフェン(2~4層)について4探針AFMによるシート抵抗計測を行なった。このグラフェンに形成される、ステップ領域とテラス領域のシート抵抗を見積もったところ、前者は後者に比べて10倍程度大きい抵抗を持つことが分かった。この結果は、ステップ部分で欠陥が形成されるという従来のグラフェン成長モデルと一致しており、昇華法グラフェンのデバイス応用に対する課題を明示した。
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