研究概要 |
本研究では、炎症性腸疾患の治療を目指し、カーボンナノチューブ(CNT)による経口投与薬物送達に関する基礎研究を行うことを目的とした。CNTの経口投与に関する研究はほとんどされていないことから、まず、CNTの一種であるカーボンナノホーン(CNH)をマウスに経口投与し、腸管との相互作用や体内拡散について調べることにした。今年度の主な研究成果は以下の通りである。 (1)Gdラベル付きCNHの経口投与実験…前年度は、Gdラベル付きCNHを作製し、正常マウス及び大腸炎モデルマウスに経口投与し、4~48時間経過後に解剖、各臓器を取り出してホルマリン液に固定した。今年度は、採取した各臓器中のCNH含有量をラベルしたGd量をもとに計測・算出し、経口投与における生体内分布を確認した。その結果、正常マウスではCNH投与24時間後には体内に残留するCNHがわずかとなり(24時間後に投与したCNHの約2%、48時間後に1%未満)、フンとして体外に排泄されていることが確認できた。一方大腸炎モデルマウスでは、24時間後に体内に残留しているCNHが約20%と、正常マウスに比べて排泄が遅くなる傾向にあったが、48時間後に残留したCNH量は10%にも満たなかった。また、どちらのマウスも、肝臓・脾臓・血液からはCNHが検出されなかった。以上の結果より、経口投与したCNHは消化管から体内に吸収されず、すべて体外にフンとして排泄されることが明らかとなった。すなわち、CNHを経口投与薬物送達に用いる際には、体内における薬物キャリアの残留を懸念しなくてよいと言える。 (2)サイズ制御・表面修飾を施したCNHの経口投与実験…CNHのサイズや表面修飾の違いによって生体内分布に違いが出るのかどうかを確認するために、(1)で用いたGdラベル付きCNHの他に、5種類のCNHをそれぞれ正常マウス及び大腸炎モデルマウスに経口投与し、24時間経過後に解剖、各臓器を取り出してホルマリン液に固定した。投与したCNHは、通常のCNHに比べてサイズが小さいCNH,表面を酸化して分散性が向上したCNH,PEG化合物でコーティングしたCNHなどである。これら5種類のCNHは、定量が可能となるラベルを有しないので、採取した各臓器から作製した組織切片で分布の傾向を観察した。その結果、Gdラベル付きCNHと同様、今回投与した5種類のCNHすべてにおいて、肝臓・脾臓への分布は認められなかった。また、大腸においては、フン中にCNHと思われる黒い物質の存在は認められたものの、腸管組織中へのCNHの取り込みは観察されなかった。以上の結果より、CNHのサイズや表面修飾の違いによって、大きな生体内分布の違いは見られず、CNHを経口投与による薬物キャリアとして用いる際には、内包する薬物の性質によって、CNHに適切な化学・物理修飾等を施すことが可能であることが明らかとなった。
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