医薬品開発では動物実験の代替法として培養細胞を用いた化学物質の薬効・毒性のスクリーニングアッセイが広く行われているものの、従来の培養細胞実験系では複数臓器が関与する体内挙動の評価が困難である。このような問題に対して、本研究では、「BODY ON-A-CHIP」というコンセプトのもと、ヒトの主要な臓器細胞をマイクロ流体デバイス内に集積化し、化学物質などの入力に対して臓器間相互作用を考慮した出力の分析が可能なプラットフォームの実現を目標とした。昨年度までに、プラットフォームの基盤要素の開発とその評価を完了したため、今年度はこれらの機能要素を統合したプラットフォームデバイスを製作し、薬剤モデル物質を用いて実際に生体内で起こりうる薬物動態のシナリオを再現することで本デバイスのin vitroモデルとしての機能検討を実施した。具体的には、吸収代謝機能の評価として、小腸コンパートメントにエピルビシンやシクロボスファミド、イリノテカンといった特性の異なる抗がん剤モデル物質を導入し、数時間後の肝臓コンパートメント、及び肺コンパートメントに配置されている各細胞の挙動を観察した。この観察の結果、本デバイス内で見られた細胞動態の挙動は、in vivoにおいて各抗がん剤モデル物質が経口で投与された時と同等であることが明らかになった。さらに、上記のような物質曝露試験において時々刻々と変化する細胞状態を経時的に計測する手段として、本プラットフォームデバイスへの光ファイバを活用した蛍光計測システムの導入の検討も実施した。このような実験系を構築し、毒性物質に曝露した細胞挙動の計測を実施したところ、従来の培養実験系では取得が困難であった細胞動態の経時データの獲得が実現した。以上の研究結果から、本課題研究において本デバイスは動物実験の有効な代替手法の一つとして薬物動態評価のためのプラットフォームへの応用が期待できるという結論を導くことができた。
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