研究概要 |
新規事業への参入や既存事業の拡大に対して,投資を行う企業にとって,そのための資金調達手段は重要な課題のひとつとなっている.その資金調達には,株式や普通社債,転換社債の発行などが挙げられ,それらの債券の発行は企業の資本構成を大きく動かす.企業の資本構成は株主と経営者の利害対立に影響を与え,株主と債権者の利害対立は経営者報酬へ大きな影響を及ぼすといわれているが,経営者報酬に関する従来の研究では,企業の資本構成の影響を考慮していない.そこで,本研究では,株主価値の変化に対する経営者報酬の変化の感応度を示すpay-performance sensitivity (PPS)に着目することで,転換社債発行企業における経営者報酬に関する分析を行った. 既に,転換社債発行企業の経営者報酬に関して,債券を多く発行する企業のPPSは低く,PPSとレバレッジには負の相関があり,転換社債を発行する企業のPPSはより高いことを実証研究において示されている.本研究では,投資における資金調達に着目することで,リアルオプションによる価値評価法を用いて転換社債発行企業のPPSと経営者報酬に関して理論モデルを提案した,さらに,提案モデルの結果と実証結果との整合性について議論し,新たな視点から転換社債の発行や経営者報酬がPPSに与える影響を分析した.この研究成果は,OR2011(8月・チューリッヒ),日本オペレーションズ・リサーチ学会2011年秋季研究発表会(9月・甲南大学),日本リアルオプション学会2011年研究発表大会(11月・青山学院大学),INFORMS Annual Meeting2011(11月・シャーロット)等において報告をおこなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度の目標はCEO報酬(経営者報酬)の価値を定式化することで,株式や普通社債だけでなく,転換社債を発行することで資金調達をする企業における事業プロジェクトの評価モデルを構築し,企業のデフォルトや転換社債の転換・償還,投資の最適なタイミング,最適資本構成,プロジェクトの経済的価値を分析することであった.ここで得られた結果は当初の予定以上のものであったため,計画以上の進展であるといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,経営者報酬としてストックオプションの発行を考える企業の理論的な評価モデルを提案し,資金調達と投資戦略に関する分析を行う予定である.このストックオプションを与えることで,経営者の利益が株主の利益に近づくため,経営者を株主の利害対立が軽減される手段として有効である.したがって,ストックオプションの発行が資本構成や投資戦略に与える影響を分析することは重要なことであるといえる.
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