近年,経営の効率化のために,成果主義的な制度を導入する企業が増加傾向にある.本研究では,企業経営を理論的観点から分析する手法であるリアルオプションアプローチを用いて,経営者報酬として成果主義的な要素のひとつであるストックオプションを導入する企業の評価モデルを提案した.株式から派生する経営者報酬に対する支払いは,株主と経営者の利害対立を軽減し,そこから生じるエージェンシー問題を解決すると言われている.企業の資本構成は株主と経営者の利害対立に影響を与え,株主と債権者の利害対立は経営者報酬へ大きな影響を及ぼすことを示しており,企業にとってどのような資本構成を選択するかは重要な課題である. 本研究では,株主価値の変化に対する経営者報酬の変化の感応度を示すpay-performance sensitivity (PPS)に着目した.特に,債券の発行量が増加すると,PPSが減少し,ストックオプションの導入割合はPPSを増加させるといった実証研究で示されているストックオプションの発行が資本構成に与える影響について,提案モデルとの整合性を議論した.さらに,最適資本構成の下で,債券の発行量とストックオプションの導入割合には正の相関が存在するといった実証研究の結果についても提案モデルとの整合性を議論し,新たな視点からストックオプションが資本構成や最適戦略に与える影響を分析した.この研究成果は,2012 Asian Conference of Management Science & Applications (9月・成都),日本オペレーションズ・リサーチ学会2012年秋季研究発表会(9月・ウインクあいち),日本リアルオプション学会2012年研究発表大会(11月・早稲田大学),INFORMS Annual Meeting 2012(10月・フェニックス)等において報告を行った.
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