研究概要 |
1.無限満期モデルの数値解法の開発:無限満期モデルでは,最適戦略およびオプション価格が時計時刻に依存せず,これらを特徴づける状態変数の次元が少なくて済むため,数値解法の開発が比較的容易であると考え,数値解法の開発を試みた.しかしながら,一般化線形相補性問題に帰着させるために状態変数の変換を行なった際,境界条件での処理が影響して数値解が振動したり,解が発散するなど,数理解析では明らかにならなかった問題点が生じた.また,変数変換を行わずに非線形相補性問題として解く方法も試したが,この場合もパラメータによって解が発散するケースが生じた. 2.有限満期モデルの数値解法の開発:本来は,上述の無限満期モデルに対する解法をサブプロセスとした時間分解アルゴリズムを開発する予定であったが,問題が生じたため,参入・撤退タイミングの意思決定が無い,単純なヨーロピアン・オプション型の資産価格評価問題に対する数値解法を開発した.具体的には,満期から順に時点を遡りながら解を求めるアルゴリズムを開発した. 3.感度分析および提案手法の公開:上述のアルゴリズムをOctave上で実装し,仮想の事業例に開発した数値解法を適用して感度分析を行った.これにより,提案手法は,i)リスク要因を一切考慮しない期待現在価値法.ii)非市場リスクを無視して完備市場を仮定した方法,およびiii)実用的な価格幅を考慮しない方法に対して,それぞれ,実用性の観点で優位であることを明らかにした.具体的には,i)に対しては,評価者のリスク回避度に応じて事業価格が適切に割引かれる点で優位であると判断された.ii)に対しては,提案手法が無裁定条件のみで決まる「価格幅」を提示するため,事業の買手と売手の間で価格についての交渉を可能にし,取引の可能性が増加することが示された.iii)に対しては,プロジェクト価格の発散を防ぎ,実用的な価格幅を求められ,特に,プロジェクト収益が大きく変動する場合や,市場資産価格と事業収益の変動の相関が小さい場合には,その効果が顕著であることを明らかにした.
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