前年度から引き続き、複雑な利害関係者とペイオフ構造をもつリアルオプションモデルの構築と分析を多く行った。特に、多次元の状態変数(確率過程)を含む多次元モデルや、エージェンシー問題や非対称情報を含むモデルを開発することで、投資プロジェクトマネジメントという問題を、総合的に分析した。 例えば、本年度に新たに執筆した論文として、「The effects of external financing costs on investment timing and sizing decisions」が挙げられる。この論文では、キャッシュフローという状態変数(確率過程)だけでなく、そこから蓄積されるキャッシュリザーブという状態変数も内生的にモデル化した。これにより、外部資金調達費用が投資タイミングと投資サイズに与える影響を解明することができた。特に、企業のキャッシュリザーブが中間的である場合には、投資タイミングが早まると同時に投資サイズが小さくなる可能性があることを示した。この結果は、外部資金調達費用が、内部資金だけで投資可能な小規模なプロジェクトに投資するインセンティブを高めるというメカニズムによって発生する。本論文によって、キャッシュリザーブと投資量のU字型の関係を示した実証結果と、キャッシュリザーブと投資閾値のU字型の関係を示した理論結果の両方を、整合的に説明できるようになった。本論文は、国際的に評価の高いジャーナル、Journal of Banking and Finance に掲載された。 これ以外にも、多数の研究プロジェクトを新たに行い、国内外の多数の学会で発表し、論文にまとめ、国際査読付ジャーナルに投稿した。また、22、23年度に執筆した論文についても、学会参加者や査読者のコメント等を考慮して、修正と改訂を続けた。結果として、いくつかの論文が、査読付ジャーナルに掲載された。
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