研究概要 |
本年度の研究では,昨年度に引き続き,企業の財務指標をリスクを勘案して計測するモデル構築とそのモデルを用いた実証分析を行った.具体的な研究業績は,学術論文5編,学会発表4回(海外3回,国内1回),研究セミナー発表3回(海外1回,国内1回),書籍1編に集約される. 学術論文では,Shibata and Nishihara (2011)およびNishihara and Shibata (2011)において,企業経営者が所有者よりも情報優位となる非対称情報を仮定し,前者では経営者による投資タイミングと経営努力との間のトレードオフについて,後者では経営者による投資タイミングと所有者による費用の探索に関するメカニズムを明らかにした.Shibata and Tian (2012)では,企業が銀行よりも情報優位となる非対称情報を仮定し,非対称情報が企業に貸出する負債のクレジットスプレッドにどのような影響を及ぼすかについて分析した.Shibata and Nishihara (2012)では,負債債権者が企業に融資する際に資金制約を課す場合,その発行額制約が企業の投資戦略(タイミング)や株式価値に及ぼす影響について分析した. 学会発表では,6月にサンフランシスコで開催されたファイナンスに関する国際学会CEF 2011,7月にメルボルンで開催された国際学会IFORS2011,9月にチューリッヒで開催された国際学会OR2011,11月に慶應義塾大学で開催された日本応用経済学会,12月にロンドンで開催されたファイナンス計量に関する国際学会CFE2011にて,企業の潜在的財務指標を計測する理論モデルについての研究を報告した.また,University College London統計学部でのセミナーにおいても,研究報告を行った. 書籍としては,Ko and Shibata (forthcoming)において,市場に3つの非対称企業が存在すると仮定した上で,戦略的相互的依存関係を考慮に入れた各企業の投資戦略(タイミング)を考察し,その戦略を考慮した上での投資プロジェクト価値の評価式を導出した.この論文は,2012年6月に刊行されるRecent Advancesin Financial Engineering 2011 (World Scientific Co.)に所収される予定である.
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今後の研究の推進方策 |
Shibata and Nishihara (2012)では,負債の最大発行額制約が企業の投資戦略(タイミング)に及ぼすメカニズムが解明された.しかしながら,この論文では,負債を市場負債と限定している.今後の研究推進方策としては,銀行負債をも考慮に入れ,その最大発行額制約が投資戦略に及ぼす影響についても分析する必要があると考えられる.
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