研究概要 |
平成17年から転倒は労働災害のワーストワンとなり,平成23年現在も変わっていない。この背景の一因として50歳以上の高年齢労働者の増加があり,65歳以上の高齢者よりも比較的加齢変化が少ない50歳代についても転倒災害防止について検討する必要性が高くなった。このように転倒災害は多くなり,転倒リスクについての検討がされているものの,詳細な発生状況(転倒型,転倒方向等)に関する報告は皆無であるため,転倒防止策が実情と結び付いていない可能性がある。 本研究は,転倒災害の発生状況を反映した予防策が提案できるようにするために,転倒した・しそうになった時の身体挙動にもとづいて転倒パタンを的確に類型化する手法の考案を目的とし,平成22年度に作成した現場レベルで記入することで類型可能なチェックシートを用い,主にビルメンテナンス業従事者を対象に,チェックシートの集計結果から転倒防止策に必要な情報を取得できるか等について検討した。 その結果,チェックシートを用いた被災者ヒアリングによって転倒状況の大枠を把握できることが確認された。ただし現場との議論で評定者間の解釈の差異が生じる可能性についての指摘があったため,記入データの信頼性を高めるために記入事例を含む評定者用マニュアルを作成した。また全体の特徴として,1)転倒は前・後方向であった 2)どのように転倒したかをよく覚えていないのが半数程度であった 3)転倒時に手をついても抑えきれずに他の部位を負傷したのが数例あった等が確認された。チェックシートの結果は類似災害防止の啓蒙資料とすることや,作業着にプロテクター機能を内蔵させる等の対策に結びつける根拠として活用できるものと考えられた。なお,当初予定していた転倒挙動を抽出する被験者実験は疑似的動作であること等による結果の信頼性に問題があったため,有益な成果を得ることができなかった。
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