研究計画に従い、航行管制業務を行っている海上交通センター利用者の意見、並びに、航行管制業務に携わる管制官の業務内容に関する調査研究を実施した。 まず、利用者の意見についてであるが、概ね現行の管制内容に対して良好な意見が寄せられた。ただし、一部の利用者にあっては、航路入航前の通報時に自船の先及び後に入航する巨大船及び準巨大船に関する船種、船名、水先人乗船の有無についての情報が欲しいとの要望があった。これは、自船の前後位置を早期に決定できること、また、水先人乗船の有無によって、先船又は後船の減速の有無が予測でき、将来状況の予測に有意になるからである。一方、当該要望について、管制官に対する聴き取り調査を実施したところ、経験の豊富な管制官では、当該要望に関する情報を常に提供しているとの回答を得たが、経験の浅い管制官にあっては、必ずしも当該情報を提供しているとは限らないとの回答があった。すなわち、管制官によっては得られる情報が異なる問題が生じていることが明らかになった。 そこで、管制官の経験により生ずる技能差について調査した。現場管制業務を統括する管制官16名から、経験の浅い管制官と経験豊富な管制官との技能差について聴取し、IALAの勧告に定められた技能分類に沿って整理した。一例を挙げると経験の豊富な管制官と経験の浅い管制官とでは、「機器取扱い」について、大きな能力差見られた。このことが危険に対する情報提供の遅れにつながっていることが明らかになった。 管制官の技能整理については、本研究を通じて新たに発覚した問題であり、また、世界的にも海技従事者の技能に比べ、十分な技能整理がなされていない分野である。よって、今後も継続して研究する必要があると考える。また、今回整理された技能は管制官教育への応用が可能であり、管制官の技能向上により、航行安全に貢献できるものと考える。
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