本課題は明瞭な噴出物として残されないごく小規模噴火の痕跡をそれらを包含した土壌層中から見いだすことにより、より詳細な火山噴火史を構築することにある。本年は土壌層中からごく小規模噴火に由来する物質を検出する方法を確立することを目的に行った。対象として中朝国境上の白頭山において採取した10世紀噴火を挟在する湖底ボーリングコア試料を用いた。この湖底コアとの対照試料として北東麓および山頂の土壌層について分析・検討を行った結果、両者では粘土鉱物組み合わせに相違が認められ、山頂部の試料では黄砂成分に加え、水蒸気噴火を特徴づけるスメクタイトが含まれていた。規模の小さな噴火の影響を反映しにくい火口から20km以上離れた山麓部の試料での粘土鉱物は黄砂成分のみであることから、白頭山地域ではスメクタイトが小規模噴火を示唆しうることが判明した。この観点に基づき湖底コア試料中の10世紀巨大噴火の上下の堆積物について粘土鉱物の検討を行ったところ、10世紀噴火以前の堆積物中では一部スメクタイトの存在が確認できるなど、明瞭な噴出物として残っていない噴火の痕跡を見出すことができた。これについて古文書等の噴火記録との照合を試みたが、10世紀以前の記録が見つからず、この結果の妥当性については問題が残された。一方、10世紀以降の堆積物では巨大噴火堆積物の湖への再堆積成分が多いため、X線回折において粘土鉱物の微弱なピークしか得られず、噴火の有無を確認するまでは至っていない。湖底コアから目的とした微小噴火の痕跡を見出すまでは至っていないが、今回の10世紀前後の堆積物の解析から、10世紀噴火以前千年程度では多量の再堆積物をもたらすような規模の大きな噴火は発生していないことが示唆された。 本年度は、北東北の十和田火山、南九州の霧島火山群の2カ所についても調査・土壌試料採取し、予察的な検討を開始した。
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