本研究は明瞭な噴出物として地層中に残らないごく小規模噴火の痕跡を火山灰土層中から見いだすことで、より詳細な火山噴火史を構築することにある。以上の目的に対し、火山灰土壌層中に隠れた噴火の痕跡として粘土鉱物に着目し、噴火を示唆するごく少量のスメクタイトを抽出するための分析方法を確立する検討を行ってきた。昨年度まで分析を試みた試料について試料の量を増やすなどの再処理をすることで、粘土鉱物の濃縮を行った。これにより黄砂成分と一致する粘土鉱物を検出することは可能となったが、依然として噴火を示すスメクタイトの有無を確実にいうには困難な状況である。そのため比較的規模の大きな事象の存在を知ることは可能だが、ある一定規模より小規模なものについての検出は現状では難しく、ごく小規模噴火を検出するためにはさらなる方法論の改善が必要である。一方、本年度は土壌層中のある層位における絶対年代を知る場合、何らかの年代測定を行う必要があるが、その年代値の確かさを検討することが重要であることから、これについての検討を行った。その対象として古文書解析から年代既知とされている十和田火山の平安噴火の噴火年代について炭化樹幹試料を用いた14Cウィグルマッチングにより検討を行った。試料は噴出物中から採取した2樹幹を用いて年代測定を行い、それぞれの試料の枯死年代を求めた。その結果、使用した樹幹の年輪数が必ずしも十分でなかったため誤差が大きいが、2試料ともに文献から求められた西暦915年前後に最頻値をもつ確率分布が得られた。これによりこれまで古文書学解析から言われてきた十和田火山平安噴火の噴火年代について,自然科学的な証拠を提出することができたとともに、14Cウィグルマッチングによる年代測定結果の妥当性を示すことができた。
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