2009年8月11日の駿河湾を震源とするM6.5の地震の発生直後から、駿河湾で取水している397mと687mの2層の深層水のうち、687m深層水の水温上昇と濁りが発生して、取水管が地震に伴い被災したことを示唆した。また震源近傍の検潮記録で観測された津波は、震源断層モデルだけでは説明できないことが判明した。これらの観測事実は、震源域で海底地滑りが発生し、津波を増幅させたことを示唆している。南海トラフ沿いの海溝型地震でも同様の事象が発生することが懸念されるため、本年度の前半は南海トラフ沿いの海溝型巨大地震による津波発生予測の高度化にも資する駿河湾地震の実体解明を行った。その結果、駿河湾地震に伴って深層水取水管のうち、687m取水管については2km以上沖側に流出した事実が判明した。ただし687m取水管の破断箇所の特定には至らなかった。また海底地形調査により、687m取水管の約900m北側に海底地滑りを示唆する痕跡を発見した。また津波シミュレーション結果は、海底地滑りを考慮した場合のほうが、検潮記録を合理的に説明できることを示した。 また、海底津波観測の知見を増やすため既存の観測データを精査した。2006年千島列島沖地震(M8.3)による発生した津波は、JAMSTECの釧路・十勝沖海底ケーブル式津波計を含む日本の太平洋沿岸で観測された。一方2008年十勝沖で発生した地震(M6.8)は、JAMSTECのケーブル式津波計の直下で発生した地震で、類似の地震としては2003年十勝沖地震以来のイベントである。前者は遠地で発生した津波、後者は近地で発生した津波として、とくに沖合で観測されたデータを精査して、津波予警報への高度利用方法を検討した。遠地津波に対しては、移動平均で津波を抽出できることを示し、また近地津波に対しては津波発生時に特有の周波数帯域の海中音響波を利用する方法を提案した。
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