海底に設置した水圧式津波計データには、津波による水圧変動以外にも地震動による擾乱、津波波源近傍では海底と海面間を共振する音響波などが含まれている。本年度は、水圧式津波計を利用する津波予測の精度向上と適正化に資する知見の蓄積を目的として、水圧式津波計データの津波警報への活用の最初の事例となった2012年3月14日に三陸沖で発生した地震(Mw7.0)の海洋研究開発機構(JAMSTEC)の水圧式津波計データを近傍の海底地震計データとともに精査した。 地震の震央と観測点との距離は約130kmある。津波計が震源に比較的近いため、10Hzリアルタイムデータ波形では地動等の擾乱を受けて津波が識別できない。気象庁が利用している100s移動平均を適用すると地震発生から約7分後と約5分後に両振幅7cmの津波が水圧式津波計で観測されることが分かる。地震発生直後から、東北地方太平洋沿岸に津波注意報が発表されていたが、JAMSTECの水圧式津波計により微小津波が観測されたことから、北海道地方太平洋沿岸も津波注意報が追加発表された。気象庁では、2012年3月に水圧式津波計を津波警報の発表に活用することを開始しており、津波情報を修正した最初の事例となった。 次に水圧式津波計近傍の海底地震計データとの比較を行って、ノイズ除去のためにこの擾乱を発生させる要因を分析した。津波計と地動を水圧値に換算したスペクトルを比較すると音響波が存在する境界周波数、浅水波の境界周波数を示しており、ともに特有の周波数である。したがって水圧擾乱の特性を考慮したフィルタをリアルタイムデータに適用して、水圧式津波計により数cm程度の微小な津波を抽出できれば、気象庁における沖合の水圧式津波計の観測データを活用した津波警報・注意報の更新作業の信頼性を高めることができると考えられる。
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