近年、内在性、外来など様々な機能性の非コード(nc)RNAが標的遺伝子のエピジェネティック制御に関与する事が報告され始めた。内在性ncRNAは細胞種特異的発現を示すものも多く、機能性ncRNAの細胞への導入によるエピジェネティック改変(発現制御)の効率化には、内在性ncRNAの標的遺伝子同定と発現状態との総合理解が必須である。本研究では、転写調節領域に存在する内在性ncRNA生成因子の欠損細胞を用いて、DNAメチル化変化を指標として標的遺伝子を全ゲノム的に同定し、内在性ncRNA発現パターンとエピジェネティック制御との関係を明らかにすることを試みた。Dicer欠損ES細胞については、解析した遺伝子のうち10遺伝子で、メチル化状態の変化が確認できた。興味深いことにDicer欠損細胞では、対照に比べて高メチル化(5遺伝子)、低メチル化(5遺伝子)の双方が検出され、このうちの多くはDicer欠損による遺伝子発現変化とDNAメチル化状況の変化が相関していた。これにより、Dicerを介して生成する短い二本鎖ncRNAによりDNAメチル化状態が制御される標的遺伝子を発見した。一方、Dicer欠損ES細胞の解析からは、Dicer非依存的にncRNAによりDNAメチル化状態が制御される遺伝子も検出された。このうちの一つでES細胞の多能性維持に重要なSall4遺伝子は、プロモーター領域に長い一本鎖アンチセンスncRNAが存在し、このアンチセンスncRNAによりDicer非依存的にDNAメチル化制御を受けることが判明した。
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