クロマチン構造は転写制御に重要な役割を持ち、細胞の状態変化とともに再構築され得る。本研究では加齢に伴うクロマチン構造再編成の分子機構とその役割の理解を目的として、コヒーシン複合体、HP1等、クロマチン構造の構築に必須な因子に着目し、ほ乳類の脳においてこれらの因子のゲノム上の結合位置を網羅的に同定することを試みている。 平成24年度はまず、前年度に引き続きChIP(クロマチン免疫沈降)法の最適化に取り組んだ。生後のマウス脳を用いると培養細胞と比較して可溶性クロマチンを均一に得るのが難しかったが、バッファー、超音波破砕等の条件を検討した結果、コヒーシンの既知の結合部位を特異的に濃縮できることが定量的PCR法により確認された。さらに、多数の細胞種が混在する脳から神経細胞を単離するため、フローサイトメトリーを用いて神経細胞核とその他の細胞の核を分離する方法も確立した。これにより神経細胞特異的なクロマチン構造の解析が可能となった。 また、脳の可塑性が高まる「臨界期」に必要な転写因子Otx2が結合しているゲノム上の部位にコヒーシンも結合しているケースを複数見いだした。コヒーシンの結合が一部Otx2に依存していることから、臨界期のマスターレギュレーターであるOtx2がコヒーシンを介してクロマチン高次構造を制御することにより、臨界期に関わる遺伝子の発現制御を行っている可能性が示唆される。今後、これまでに確立した系を用いて若い(臨界期の)マウス個体と成熟個体それぞれの脳よりChIP-seq解析を行い、クロマチン因子の結合領域がどのように変化するのかを解析することで、加齢による脳の可塑性変化の基盤となるクロマチン再編成の分子機構を明らかにしていく。
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