研究概要 |
MALDI法は質量分析イメージングにおいて最も良く用いられるイオン化法であるが、MALDI法自体の持つ欠点(定量性・再現性の悪さ、マトリックスイオンによる妨害)のため、細胞膜脂質や骨格タンパク質など、組織中に圧倒的多量に存在し、かつ分子量が比較的大きな分子群の定性的な分布観察のみにその適用は制限されていた。一方研究代表者は、MALDI法に用いるマトリックスの最適化およびサシプル調製法の最適化を徹底的に行うことで、MALDI法の超高感度化を実現し、単一細胞から100種以上の代謝物を同時に検出することに成功した。生命現象の物質的表現型であるメタボロームに時間・空間分解情報を付与し、これまで全くの未知であった生体組織微小領域における代謝ダイナミクスを明らかとした(Anal.Chem.(2010)82,9789-9796)。この「単一細胞レベルの検出感度による内在性低分子量代謝物動態の時空間分解可視化」は世界初の成果である。一方、MALDI法は質量分析イメーシンクにおいて最も良く用いられるイオン化法であるが、MALDI法での測定に必要なマトリックス(イオン化助剤)に制限があり、一度の測定で検出可能な分子に制限があるという欠点があった。そこで、これまでの検討で最も高感度かつ幅広い代謝物のイオン化に適応可能であった9-aminoacridineを基本骨格とし、様々な置換基を導入することで、独自の合成マトリックスの開発に着手した。その結果、これまでMALDI法では測定が難しかった化合物の高感度測定が可能な新規マトリックスの合成に成功した。また、イオン化対象とマトリックスとの構造-機能相関に関する新たな知見を得ることにも成功した。
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