前年度では、PKCεのC2ドメインの結晶構造解析が解かれているので、PDBより、データを取得し、In silico解析により、PKCεの機能未知なポケットと結合可能な低分子化合物をスクリーニングした。その結果、既存薬Xが同定された。既存薬Xは優れた薬効を持つが生体内の標的分子が未同定であり、この結果は、既存薬Xの構造を最適化し薬効を上げることができる可能性を潜在的にもつ、創薬研究において極めて重要な知見である。バキュロウィルスを用いて、作成した組み換え体PKCεを作成し、既存薬Xとの結合をビアコア3000により検討したところ、結合の親和性を表すKD値が-8乗オーダーで確認できた。本年度は、さらにIn silico解析から予測されたPKCεの機能未知ポケットを介した既存薬Xとの結合を検討するために、バキュロウィルスを用いて、機能未知ポケットを含むC2ドメインの欠損変異体、C2ドメインおよび野生型PKCεそれぞれのC末側にトリプルFlagタグを融合させて作成し、抗Flag抗体M2-アガロースを用いて分離精製後、同様にビアコアにて結合実験を行った。具体的には、既存薬Xをセンサーチップ上に固定し、各種組み換え体タンパク質を流し、分子結合を観察した。野生型PKCεおよびC2ドメインは既存薬Xへの結合を確認できたが、C2ドメイン欠損変異体においては、既存薬Xとの結合が全く確認できなかった。この結果は、我々のIn silico解析の予測どおりに、既存薬XがPKCεと結合することを示すものであり、既存薬Xの標的分子がPKCεであるという新たな知見が得られた。現在、この結果を纏め、国際的な一流学術雑誌に投稿準備中である。
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