これまでに、機能を阻害するとマウスES細胞が始原生殖細胞へと分化する可能性のある遺伝子を、RNAiスクリーニングにより5つ発見していた。これらの5遺伝子と、その機能阻害によって得られたVasa陽性ES細胞について解析を行った。Vasa陽性細胞が実際に生殖細胞として機能できるかどうかを検証するため、セルソーターで分取した陽性細胞を無精子症マウスの精細管へと移植し、精子形成への寄与を確かめた。5遺伝子のうち4遺伝子についてそれぞれ機能阻害したES細胞を移植して調べたところ、3つの遺伝子について減数分裂や精子形成を確認できたが、その頻度はきわめて低く、定着率も低かった。現在、細胞の分取法を変更するなどしてこの点について改善を進めている。胚発生時にエピブラストと呼ばれる多能性幹細胞から運命決定を受けて発生した始原生殖細胞は、その後ヒストン修飾の変化・ゲノムインプリンティングの消去といったエピジェネティックな変化をおこすことが知られている。候補遺伝子の機能阻害によりVasa陽性となったES細胞についても同様の変化が起きているかどうかを確かめたところ、いくつかの点についてin vivoと同様の変化を示していることがわかった。したがって、候補遺伝子の機能阻害によりvasa陽性となったES細胞は、機能面とエピジェネティックな面から、ある程度生殖細胞の性質を獲得していることが明らかになった。今後はES細胞が始原生殖細胞へと変換するメカニズムについて解析していく予定である。
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