研究の総仕上げである平成24年度は、文献からの転写制御関連データ更新、ウェブインターフェイスの改良に加え、比較ゲノム解析とネットワークモチーフ解析の4点を行なった。1)データ更新においては、放線菌の対象生物種を15種に広げ、データサーズを2倍以上(転写因子数152、被制御遺伝子数459、転写開始点数325、文献数302)に拡張した。藍藻では、177文献から、52転写因子、1093被制御遺伝子、86オペロンを抽出した。これらは、マニュアルキュレーションによるデータの質の高さから、トランスクリプトーム解析やバイオインフォマティクス研究のリファレンスデータとして使われている。2)ユーザインターフェイスでは、生物種の比較表示機能と、重み行列を使ったモチーフ検索機能の改良を行った。3)比較ゲノム解析では、本プロジェクトで収集した放線菌・藍藻データに加え、既存のDBから大腸菌、枯草菌、緑膿菌、結核菌の転写因子の結合配列を比較した。その結果、転写因子のモチーフ配列の認識には、一定の結合力を保つため、一定のAT含量を持つことを想定したが、実際には背景となるゲノムGC含量(プロモータ領域もほぼ同じ)から一定の割合でAT含量が高くなった。これは転写因子がモチーフ配列と結合する力を一定に保つのではなく、モチーフ探索の際に背景GC含量との比較をみて探している可能性を示唆した。最後に、4)ネットワーク解析では、少数のハブ転写因子が多くの遺伝子の転写を制御しているスケールフリー性は、大腸菌同様にどの種でも確認できた。しかしその他のネットワークモチーフ解析の結果では、生物種特有の機能に関する転写ネットワーク(枯草菌の胞子形成、放線菌の抗生物質合成、藍藻の光合成)においては、大腸菌とは異なる傾向を示した。これは一部のモデル微生物に注目した解析だけでは不十分で、本研究の重要性が指示された。
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