サーカディアンリズムの制御メカニズムの解明は盛んに研究が行われ、また、周期的発現の理論モデルは報告されているが、実際に真核細胞内で人工的にリズムを生み出したり、リズムを制御するという試みはほとんどない。本研究では、時計遺伝子プロモーターに存在する転写因子結合配列に選択的に作用する人工転写因子を作製し、細胞時計のリセット、すなわち、時計遺伝子発現リズムの位相シフトの誘起を試みた。人工転写因子のDNA結合ドメインとして、様々な3塩基対に対応するように改変された亜鉛フィンガーモチーフの連結体を用い、まず、このジンクフィンガーが標的DNA配列へ選択的に結合することを確認した。さらに、転写活性化ドメイン、リガンド応答性の分解ドメインを融合した人工転写因子を設計し、時計遺伝子プロモーター駆動レポーターベクターの生物発光をリアルタイムでモニタリングした。その結果、リガンド添加によって人工転写因子は核内に蓄積し、リガンド添加のタイミング依存的に、時計遺伝子発現リズムの位相を前後に操ることに成功した。これまで、細胞時計のリセットにはフォルスコリンやデキサメタゾンなどの化合物が用いられてきたが、これらは様々な遺伝子に影響を与えてしまう。高い選択性で時計遺伝子ネットワークに直接作用できるこの人工転写因子は、時間治療の新しい手段として、またリズミックな発現メカニズムを解明するためのプロモーター解析ツールとしての有用性が期待される。
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