第三の生命鎖としての糖鎖の重要性が明らかになるにつれ、生理活性糖鎖の機能を人為的に制御する新技術の開発と応用は、次世代の医療分野を含む生命科学において極めて重要である。本研究では、がんの転移や結核菌の生存に深く関与する生理活性糖鎖を選択的に認識し、特定波長の光照射下、その標的糖鎖を光分解することで細胞機能を制御する新たな人工生体機能分子の創製を目的とし研究を行った。研究の初年度である本年度は、研究実施計画に従い、以下の2つの研究項目を行った。1、結核菌の細胞壁構成糖鎖ガラクトフラノシド(Galf)を標的とする人工生体機能分子の創製研究では、まず、当研究室で見出された、長波長紫外光の照射下、糖鎖を光分解するアントラキノン誘導体と、Galfが有する鎖状1、2ジオールと共有結合可能なボロン酸とを連結したハイブリッド分子をデザイン、化学合成した。さらに、本分子の各種糖鎖に対する結合定数を算出したところ、Galfに対して強い結合能を有すること、また、本分子が、ブラックライトの光照射下、Galfを選択的に光分解することを見出した。さらに、本分子が、Galfを細胞壁に有する結核菌の増殖を、光照射選択的かつ効果的に抑制することを見出し、本分子が細胞壁を光分解することで結核菌を死滅させる新たな人工生体機能分子であることを実証した。2、ガン転移関連糖鎖を認識する人工レセプターの創製研究では、基礎研究として、シアリルルイスA(sLe^a)の部分構造であるシアル酸を認識する低分子レセプターの創製を目指した。すなわち、N-アセチル基と水素結合可能な1級アミド、グリセロール側鎖と結合可能なボロン酸、及びカルボン酸とイオン結合可能なグアニジノ基を有する低分子をデザインし、現在、鍵中間体までの合成を達成している。来年度は、sLe^aに対するレセプター分子の創製と細胞機能制御への応用に取り組む予定である。
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