研究課題
申請者はストレス誘導性ガスシグナルである一酸化炭素(CO)がヘムタンパク質cystathionineβ-synthase(CBS)の酵素活性を阻害することで含硫アミノ酸代謝を調節し、メチル化基質となるs-adenosyl methionine(SAM)量を変化させることでタンパク質のアルギニン残基のメチル化を亢進させる作用があり、糖代謝制御がその作用下にある事を見出した。COには従来、アポトーシスから身を守る細胞保護作用、細胞増殖作用があることが報告されていたが、その機序は十分に明らかになっていない。昨年度の研究成果において、COの下流の糖代謝制御分子としてPFKFB3(6-Phosphofructo-2-kinase/tructose-2,6-bisphosphatase-3)のアルギニン残基がメチル化修飾を受けることを明らかにした。本年度は、PFKFB3の修飾動態と酵素活性との相関を明らかにするために、メチル化PFKFB3を認識するポリクローナル抗体を作成した。その結果、細胞内においてPFKFB3はメチル化状態にあるが、CO処理やCO合成酵素HO-1の過剰発現細胞ではPFKFB3が低メチル化状態にある事を見出した。また、メチル化部位に変異を導入した変異体(R131K/R134K)をHEK293細胞へ発現させたところ、野生型に比べ、反応産物であるF-2.6-BP産生能が低く、ペントースリン酸回路への流入が多くみられることから、脱メチル化型PFKFB3では酵素活性が低いことが考えられる。また、PFKFB3はK142がユビキチン化されることが報告されていたがこのK142は同定したアルギニン残基と近接する。そこで野生株とHO-1過剰発現株でPFKFB3のユビキチン化動態を調べたところ、HO-1過剰発現株では高度にユビキチン化されていることから、PFKFB3のメチル化とユビキチン化は拮抗的に働くことが明らかになった。以上の結果より、COはCBSを介した含硫アミノ酸代謝調節により糖代謝酵素PFKFB3の脱メチル化を惹起し、解糖系を抑制することでペントースリン酸回路への流量を増加させる。この糖代謝のリモデリングで生じた還元当量NADPHにより細胞はアポトーシス耐性を獲得するという、新しいモデルを提唱するに至った。
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