活性酸素種は細胞死を引き起こすことにより様々な疾患の原因になっている。私はこれまでに発現クローニング法により活性酸素種による細胞死を抑制すると考えられる数種類の遺伝子を得ている。本研究においては、このうち1種類の遺伝子に着目し、その作用機序について明らかにすることを目的とする。 本年度は、得られた遺伝子のcDNAを動物細胞に導入し過剰発現させ、ウェスタンブロット法を用いて、細胞死に関与する既知の因子の発現量について解析を行った。以前、発現クローニング法により遺伝子を単離してきた過程で、活性酸素種の一つである過酸化水素を用いたことから、過酸化水素による細胞死に関係することがすでに報告されている因子を中心に解析を行った。その結果、得られた遺伝子を高発現する細胞株においては、幾つかの既知の因子の発現量やリン酸化レベルが変動していることが明らかになった。 次に、得られた細胞死抑制遺伝子の動物個体における生物学的な役割について解明するため、得られた遺伝子を高度に発現するトランスジェニックマウスの作製を行った。トランスジェニックマウスの作製は、熊本大学生命資源研究・支援センターに委託した。まず、得られた遺伝子のDNA溶液を熊本大学に送り、熊本大学において受精卵にDNA溶液をインジェクションし、この受精卵を仮親雌マウスの卵管へ移植し出産させた。その後、離乳したマウスを熊本大学から受け取り、PCR法により発現コンストラクトが導入されたマウスのスクリーニングを行った。その結果、約15%がファウンダートランスジェニックマウスであることが明らかになった。今後は、サザンブロット法を用いてゲノム内に取り込まれた導入遺伝子の検出を行い、交配により導入遺伝子を高度に発現する系統の樹立を行い、酸化ストレスによる様々な疾患やがん化への影響について解析を行う予定である。
|