本研究の目的は、佐渡島に再導入されたトキの主要な採餌環境である水田を、生物量と生物多様性が高い状態に再生するため、水田内の局所スケールおよび水田周辺の景観スケールでの環境の異質性に着目し、再生の効果が高く見込まれる候補地域(水田群)抽出のための統計モデル構築を目的とする。本研究では、現地水田における生物サンプリングと環境パラメータの測定およびGISデータの要因解析に基づくモデルにより分析によって、水田の水生生物の生物量や種多様性に与える環境要因とその範囲(スケール)を検討する。 佐渡島内の野外調査は、佐渡島中部の国中平野内と、平野周辺の丘陵地にかけての水田と里山林がモザイク状に入り組んだ地域において、水生生物量が最も多いと見込まれる7月に実施した。対象とした水田タイプは、通年湛水休耕田22枚と、稲作水田54枚(うち、水田内に小土水路である「江」がある水田13枚)の合計76枚である。各調査水田内にコドラート(45×90cm)を3つ設け、水田内の局所環境要因として、コドラート内の水温、水深、稲と草木の草丈と植物被度を測定した。各コドラートでは、手網(1mmメッシュ)を用い、すべての水生生物の捕獲を行った。その他、稲作水田に関しては農薬や化学肥料の使用状況の情報を収集した。採集した水生生物は実験室にて種同定と重量の測定を行い、各調査水田の種数と種ごとの現存量を算出した。その結果、採集された水生生物は、トンボ目幼虫15種、水生カメムシ目9種、水生コウチュウ目15種、貝類4種、その他ハエ目10種などであった。生物量の多い生物群は、水生コウチュウ目およびカメムシ目であった。また、出現種数は水生コウチュウ目、次いでカメムシ目であったが、周囲に森林が多い水田ではトンボ目幼虫が多い傾向があった。
|