本研究の目的は、佐渡島に再導入されたトキの主要な採餌環境である水田を、生物多様性の高い状態へと再生することを目指し、高い再生の効果が期待される地域(水田群)を抽出するため、水田内の局所スケールおよび水田周辺の景観スケールでの環境異質性に基づく統計予測モデルを構築した上で、モデルを現地へ適用し生物多様性の予測マップを作成することである。昨年度は、水田に生息する水生昆虫のうち出現種数の多かったコウチュウ目、カメムシ目、トンボ目(幼虫)を対象に、それぞれのグループの出現種数を局所と景観要因で予測する多変量モデルを構築した。今年度は、昨年度得られたモデルをGIS上で佐渡の水田に対して外挿し種多様性予測マップを構築した。水生昆虫の種多様性を決定する局所および景観環境要因が分類群に応じて異なっていたため、各3種群のマップを作成した。今回のマップ作成の対象としたのは、佐渡島中央部に広がる国仲平野およびその周辺の里山環境を含む地域の水田であり、放鳥されたトキの採餌行動が観察されている場所とも重複する。コウチュウ目の出現予測マップでは、国仲平野全域および平野周辺の里山林に接する地域を含む広範囲の水田において比較的多い種数が出現することが示された。カメムシ目では、国仲平野全域では出現種数は比較的多いものの、周辺の里山環境を含む地域の水田では出現種数は少ないことが示された。一方、トンボ目(幼虫)の出現種数が高い地域は平野周辺の里山林に接する水田であり、平野部の水田で見込まれる出現種数は少ないことが予測マップによって示された。従って、本研究の対象地域では、水田の水生昆虫の種多様性の復元や維持にとって重要な点は、分類群ごと対象地域を設定し適切な保全対策を採ることが重要であると考えられる。
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