海草藻場は沿岸域の生物多様性を支える基盤となっているが、近年、人為的な影響により世界的規模で衰退しつつある。本研究では南西諸島に分布する熱帯性海草藻場・海草類を対象として、遺伝的多様性の評価・比較に基づく遺伝資源の現状把握を目的とした集団遺伝学的解析を行っている。本年度は南西諸島に分布する10種の海草類のうち、潮位に沿った海草藻場の分布を代表する3種(ウミヒルモ、ベニアマモ、リュウキュウアマモ)について主要な島嶼(奄美大島、沖縄本島、宮古島、八重山諸島)間の遺伝的多様性の比較し、保全すべき単位(ESU)の探索を行った。南西諸島全体で、30ヶ所の海草藻場で野外調査を行い、ウミヒルモ、ベニアマモ、リュウキュウアマモについてそれぞれ22、17、26ヶ所でのサンプリングを行った。解析対象種ごとに遺伝的多様性の定量化と地域間の比較を行うために、4つの分子遺伝マーカー、アロザイム酵素多型、RAPD、AFLP、cpSSRを用いた集団遺伝学的解析を行った。いずれの種においても4つの分子遺伝マーカーに関して、アロザイム酵素多型、cpSSR、RAPD、AFLPの順に遺伝的多型の程度が高くなる傾向が見られ、その結果、AFLPがこれらの種の遺伝構造の推定に最も有用な遺伝マーカーであると推定された。集団内に遺伝的多様性が存在し、一定の割合で種子繁殖が行われていることが示された。主要な島喚間には一定の遺伝的分化が認められ、保全すべき単位として認められる可能性が示唆された。現在、より詳細な遺伝構造の情報を得るべく、沖縄本島周辺の藻場に関して網羅的な解析を進めている。
|